パシフィックコンサルタンツ(株)
髙阪 加奈代
【土木分野修了生】
2018-10-17
東急建設(株)
沼上 清
【JABEE認定審査長経験者】
2018-08-13

大成建設(株)
長﨑 了
【土木分野修了生】

「高校時代は全然勉強していなくて、大学は必修科目をとらなければならないお蔭で勉強できました」と飾らず笑い、「仕事は、やればやるほど面白くて」と目を輝かせる長﨑さん。土木の現場に魅せられ、大きなプロジェクトのマネジメントも経験し、海外に羽ばたく夢に着実に歩みを進める長﨑さんは、チームであたる仕事の面白さ、厳しさ、やりがいを日々実感しています。

頭と手を同時に動かす学びは定着し、仕事に生きる
―― 長﨑さんが、土木の道に進もうと思った経緯を教えてください。

高校時代は身を入れて勉強することもなく過ごしていたのですが(笑)、3年生の時にようやく「これではまずい」と気が付きました。そしてその頃、仲のいい友人から森博嗣のミステリー小説を借りて読むことがあり、とても面白くて作家の経歴を見たら、彼は名古屋大学建築学科のコンクリート分野の先生だったのです。そんなきっかけで、この大学に行ってみたいな、と思って進学しました。その頃は建築と土木の違いもそれほど理解しておらず、コンクリートで大きなものをつくれることに魅力を感じていました。大学では2年時に建築と土木に進路が分かれ、自分は土木を選びました。それ以来ずっと、土木に魅了され続けているんですよね。

実は在学中、自分がJABEE認定プログラムを履修しているということを一切知らず、大学卒業時に免状をもらって初めて、JABEEコースを修了したことを認識しました。また、入社後に会社から技術士資格の取得を勧められた時に、JABEEの修了生は技術士資格試験の一次試験が免除されることを知り、周りからそのように見られる事に対して改めて身の引き締まる思いがしました。

―― 思い返した時、大学でのJABEEコースの授業は、どんな特徴がありましたか?

実験演習が多かったと思います。たとえば、コンクリートの補強方法を探る授業では、繊維シートなどで鉄筋を補強した構造体を壊して強度を確かめたりしましたね。また水路の形状や素材が水流にどう影響を与えるかを確認する水理実験なども行いました。これらはすべてグループで行う共同作業で、結果よりもグループワークのプロセスに重点が置かれていたと思います。もしレポートだけだったら、既存の資料の組み合わせでつくれてしまうかもしれません。結果だけつじつまを合わせて提出することができないようになっていましたから、自分も仲間も単位をとるのに苦労していましたね。また、必修科目がとても多くて、これを必死にこなしていく中で必要な知識が身についていったのだと思います。

社会人になって痛感したのは「仕事には、決まった答えがない」ということ。答えは一つではない中で、チームになってともに道を探ることが多く、大学ではそんな場面を想定してプログラムが組まれていたのだな、と今にして思いますし、学生という多感な時期にこうした経験ができたことは、後に生きてきています。

―― 長﨑さんの専門を教えてください。

学部も大学院も材料形態学研究グループのコンクリート構造研究室に在籍し、コンクリートの乾燥収縮ひび割れの進展挙動解析を研究テーマにしていました。学部3年の時に構造体のひび割れについて興味を持ったのがきっかけです。研究室では、ひび割れの開き具合や発生状況を解析するシミュレーションのプログラムをつくっていました。というのも、ひび割れについての評価はこれまで「発生確率を何%以下におさめること」と表現されており、非常に現場が従いにくいという課題があったのです。その曖昧さに切り込めないか、というのが研究室の先生の思惑だったわけですが、社会人になり、土木の現場に携わってようやく、その真意を知った次第です。

人生を変えた、飛騨トンネルの現場
―― 現在の会社で働きたいと思ったきっかけは、何でしょうか?

大学院のインターンシップで行ったのが、大成建設の手掛ける東海北陸自動車道飛騨トンネル建設の現場でした。白川郷の山奥にある作業所に2週間泊まり込むというハードな内容でしたが、自分は心惹かれたんですよね。この時の経験がなければ、今の自分はありません。

現場では、学生に怪我をさせてはならない、無理をさせてはならないと気遣いをいただきました。そして夜、一緒に飲みに行くと、「ゼネコンは絶対やめろ」と口々に言われて(笑)。自分は残業ができない立場だったので定時になったら宿舎に送ってもらい、食事をしたりお風呂に入ったりするのですが、現場の方々は食事後に昼夜交代の引き継ぎ等のために現場に戻り、そして次の朝も当然早い。ですが、なぜだか現場の方々は凄く楽しそうに仕事に向き合っているように見えたのです。その生き生きした姿を見て、こんなに夢中になれる仕事があるのか、と強く印象に残ったんですよね。

―― 実際に働く中で、JABEEで学んだことが生かされる場面はありましたか?

2008年大成建設に入社後は、本社の土木設計部に配属されました。芝浦水再生センター雨天時貯留地の設計に携わり、その後は現場の施工管理まで担当することができました。チームでプロジェクトを進める中で大事だと思われるのは、「分担した役割の中で支え合うこと」と「ゴールを明確に設定すること」です。上司が提示したゴールやそこまでの流れをしっかりと読み取り、目的を達成するための自分の動きをつくる。学生時代にJABEE認定プログラムで繰り返しグループ研究をしていたため、自分にはこうした思考回路や所作が定着していたように思います。

また、プロジェクトを進めていくためには、お客様の要望に対し、工程や法的懸案事項、技術的要件、予算などをしっかりと説明してコンセンサスを得ながら進めることが非常に重要です。JABEEコースに、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力を高めるプログラムが組み込まれています。その意義を知るのは社会に出てからなのでしょうね。学生時代にもっと意識しておけばよかったなと、今、痛感しています。

経験を積む中で、自分が変わり、見える風景が変わる
―― 設計と、建設現場、この双方の仕事に関わってみて感じることはありますか?

どちらの仕事も突き詰めれば「マネジメント能力」こそが必要なのではないかと、現時点では感じています。どんな人が“できる人”に見えるか、思い浮かべてみると分かります。仕事をマネジメントするためには、人を動かす必要がある。つまり、人を動かすための魅力とスキルを身につけなければならない。上司の考えをくみ取って実行する立場から始まり、入社11年目の今、自分が直面している課題だとも言えます。大きなプロジェクトを動かす時、たくさんの後輩たちをまとめていく立場になり、「ここで自分がちゃんとしなければ大変なことになる」と緊張感が増しました。

仕事の内容が変わると、求められるスキルも変わりますが、マネジメント能力だけはどこにいても必要だな、と、今は考えていますが、これから経験を積む中で必要な能力を身につけていく気持ちを持ち続けていれば、自分が変わっていくはずですよね。それが今から楽しみでもあり不安でもあります。

―― 最後に、今後どんな仕事がしたいか教えてください。

実は社会人になる時、3つ守って欲しいことがあると親から言われていました。それは「経済的基盤をつくること」「健康を大事にすること」「海外に出ること」です。そして今年6月、希望をしていた国際支店に配属されました。どうしても叶えたい夢だったので、自分の思いの強さを証明したいと考え、今年1月にFE(Fundamental Engineering)の資格を取得しました。この受験申し込みの際に、受験資格の有無について大学時代の教育プログラムや成績表を厳密にチェックされたため、受験資格有の通知が届いた際にはJABEEコースを履修したメリットをより実感しました。

そして今後、例えばアジアで現場に携われる時がきたら、高速道路やトンネルなど大規模工事を手がけてみたいですね。何もないところに道路が通り、人が住めるようになる、という風景に大きな希望を感じるからです。

入社以来、初めての仕事や現場に携わるごとに面白さを発見し、モチベーションは上り続けています。そして今は、「自分が責任をとる」という立場にいつか立てるよう頑張る毎日です。大変なことだと承知していますが、いずれにせよ現場に苦労はつきもの。誰かに守ってもらう立場から脱却し、多くの責任を持つ立場で動いてこそ、いつかは一人前になれるのだと思っています。

―― 長﨑さん、ありがとうございました。

(2018年9月)

長﨑 了さん プロフィール

2006年名古屋大学工学部 社会環境工学科を修了。2008年名古屋大学大学院 工学研究科 社会基盤工学専攻を修了後、大成建設株式会社に入社。設計、施工の経験を経て国際支店に異動し現在に至る。技術士(建設部門)。