パシフィックコンサルタンツ(株)
髙阪 加奈代
【土木分野修了生】
2018-10-17

豊橋技術科学大学
寺嶋一彦
【教員】

高専からの編入生が学生の8割を占め、さらに多くの留学生を受け入れている、豊橋技術科学大学。副学長の寺嶋一彦先生は、「多様な人々がものづくりの研究をする大学として、教育の質を確保するためにJABEE認定プログラムの受審は欠かせない」と言います。

外部から評価されることで、教育の質が保たれる
―― 貴校はなぜ、JABEEプログラムを受審しようと考えられたのでしょうか?

きっかけは、国立大学法人化のタイミングで、教育の自己評価が求められるようになったことです。自分で自分を客観的に評価するのは非常に難しい、それならば信頼に足る外部の組織に評価をしてもらう方がいいのではないかということで、本学の学科の多くはJABEEを受審することにしていきました。本学は、2010年にそれまであった8学科を5学科に絞って再編し、学科名もなるべく分かりやすいものへと変更しました。そのことにより、就職率も上がりました。外部の評価に対する意識を持つことは重要で、それはJABEEを受審する意義と重なります。加えて、14年前から大学は認証評価が必要になっており、これはJABEEのプログラム認定の内容と部分的に重なるため、効率もいいと考えています。

ちなみに、中学や高校の先生というのは教員になるための訓練を受けますが、大学の先生にはそのプロセスがありません。つまり、PDCA(Plan・Do・Check・Act)を理解し、徹底するに至らない場合もあるんですね。ユニークな研究は賞賛される一方、カリキュラムを大きく逸脱した教育にはやはり問題がある。そんな中、JABEEを受審することになりましたら、本来教員がすべきことがきっちりと遂行されるようになりました。先生自身が、学生に対して質の高い講義をするよう自分を律するようになったと言えますね。

―― JABEEを受審すると大きな労力が必要だと聞きますが、それでもメリットがあると判断する理由は何でしょうか?

本学が他大学と大きく違うのは、高専(高等専門学校)から編入してくる学生が8割ほどいることです。JABEE認定プログラムのある高専の数は増えていますから、大学でもJABEE認定によって教育プログラムの内容が保証されているという連続した状況をつくることが重要です。

国内には86の国立大学があり、この中での生存競争に勝っていくためには、大学独自の新しさを打ち出す必要があります。豊橋技術科学大学は “技術科学”という言葉のとおり、“手を動かして習得した技術を科学的に学ぶ”という順序での教育がある場として特徴づけられています。JABEE認定プログラムは、ややもすると独自性に走りすぎる技術科学という分野において、教育の質を保証するために必要なしくみだと考えています。

国内でグローバルな環境を生み出す「多文化共生」
―― 多くの外国人留学生が在籍するそうですが、どのような教育体制で取り組んでいるのでしょうか?

留学生は約1割強ほどおります。今年は特に、ドイツ7人、フランス4人と欧州からの留学生も増えてきています。本学は、文部科学省が創生した「スーパーグローバル大学創生支援」事業に認定されており、グローバルコースの授業は英語と日本語のバイリンガルで行っています。先生も2か国語のテキストを用意します。そうした環境を整えることで、留学生も増えてきた次第です。

また、外国人も日本人も一緒に暮らすシェアハウスを学生宿舎として用意しています。特にグローバル技術科学アーキテクト養成コースの学生には宿舎プログラムがあり、学生同士で一緒に課題に取り組んだり、夜は講演があったりと充実した学生生活が送れています。海外に留学せずともある程度その環境をつくることができるのは、大学全体が「多文化共生」を目指しているからです。4年生になると、12月までは研究テーマに沿って学び、その後はインターンシップが約2か月ほどあるのですが、約400人の学生うち約60名は海外に出ます。日系の企業が多いマレーシアでの受け入れが多く、特に本学のキャンパスがあるペナンには多くの学生が受け入れられています。

―― 留学生の受入体制をつくる時、JABEEのプログラム認定は必要となりますか?

マレーシアから日本への留学においてはJABEE認定プログラムのある大学でないと国費留学できないという事情があります。実は本学でも、いちどJABEEの受審をやめた経験があります。2010年に “物質工学”課程が“環境・生命工学”課程へと再編された時のことです。2017年に再び受審するようになった大きな理由のひとつは、留学生からの要望が強かったことです。JABEE認定プログラムでないと奨学金が受給できないという理由に加えて、留学するからには国際標準を満たしたプログラムを受講したいという思いがあるのですね。大学はその思いに応える必要があると気付きました。

基礎力と専門力をともにスパイラルアップさせ、質の高い教育を維持する
―― 大学として受審される側にいると同時に、審査員の経験もあるという立場から、JABEEのプログラム認定について考えておられることを教えてください。

かつてJABEEプログラム認定の審査員を3回、審査長を1回務めたことがあります。大学側は当然、審査をされることに緊張しますが、実は審査員の立場も大いに緊張するものです(笑)。審査内容を口にする時、審査員も審査されているようなものですから。こうした経験は大学経営にも大いに生かすことができます。大学も企業もぜひ、プログラム認定の審査に関わってみるといいと思います。

大学によっては「ちょっと疲れてしまって」とJABEEの受審を途中でやめてしまうところもあると聞きますが(笑)、そうした事務労力については些末なことだと考えています。本質は、「PDCAがしっかりと回されているかどうか」についてしっかりチェックされ、外部評価を受ける価値にあります。また、その趣旨に沿い、どの審査員もプログラムの本質を見極めるスキルを持つための審査員教育の機会が確保されるなど、認定機関であるJABEE自体も常に改善され続けていると感じています。さらに、受審を継続する大学はJABEEに愛着が生まれ「大学がJABEEを育てていく」という側面も生まれてきます。

―― JABEE認定プログラムが社会で果たす役割を、どのようにお考えでしょうか。

何より、海外で活躍する人材を育成するための教育プログラムを生み出す力になっていることですね。JABEEの社会で果たす役割をさらに打ち出すべきであり、そのために大学も企業も、国際的水準を満たすJABEE認定プログラムの価値、アウトカムを可視化するように努めるべきだと思います。

一方で、“本当の『教育水準』とは何か”という問題にも突き当たります。JABEE認定プログラムは、それぞれのプログラムごとに設定する目標が異なりますから。国際的な活躍を視野に入れて目的を立てる場合もあれば、地域で活躍できるエンジニアを育てるという目的もある。ただ、それを偏差値のように断じる一元的な評価ではないのが、JABEEの特徴です。ある水準はきちんと満たしつつ、目的に到達すべき教育プログラムが組めているかを個別に見ていく。そうした柔軟性が含まれているんですよね。

―― 多様な学生を受け入れながら、多様な教育を認め、質を確保する。難しいですね。

本学において言えば、高専からの編入生が多いとはいえ、センター入試、普通高校のAO入試、工業高校の推薦もあり、そうした多様な背景を持つ学生たちが3年生で合流します。加えて留学生や、社会人入学の学生もいます。こうしたばらつきがあるからこそ生まれるシナジー効果を引き出すために意識しているのは、「螺旋教育」です。基礎力と専門力を分けて学ぶ直線的な教育ではなく、これらを綾織りに身につけながらスパイラルアップさせ、修士課程2年修了時にはバランスよく教育された状態とする。そのためには、教員がきっちりカリキュラムの目標をシラバスに記し、達成し、証拠を残していく必要があります。地味だけれど非常に重要なことであり、これはJABEEを受審することで自然と確保されていくんですね。

かつては、カリキュラムに則らないことを “自由な教育”といい、授業に出ないでも試験でできる学生は素晴らしいなんて言っている時代もありましたけれどね(笑)。冷静に考えたら、それは自由の意味を取り違えています。先生と学生は真摯に向き合い、密度濃く顔を合わせ、対等にディスカッションする機会を持つ。昔から、「研究を通じて教育する」というフンボルトの理念がありますが、これからは、それと同時に、「優れた教育を通じて研究する」という姿勢こそが、大学教育の未来をつくるのだと考えています。

―― 寺嶋先生、ありがとうございました。

(2018年11月)

寺嶋一彦先生 プロフィール

京都生まれ。1976年京都工芸繊維大学機械工学科卒業、1978年同大学大学院修了、1981年京都大学大学院博士後期課程修了。1991年ミュンヘン工科大学客員教授を経て、1994年豊橋技術科学大学教授に就任。2013年より福島県立医科大学特任教授、中国瀋陽工業大学客座教授を兼任。

写真はJABEE広報委員長 藤井俊二氏・インタビュアー 馬場未織氏と。