大学・大学院時代に高分子材料の研究に励んだ後、研究の道に進もうかと迷ったとき、社会で活躍する技術士の先輩との関わりを持ったことで「自分もものづくりのステージでやっていきたい」と企業就職の道を選んだ水野 佐和子さん。社会人3年目の現在は、2つ目の職場となる本田技研工業でアルミ鋳造のエンジニアとして活躍しています。深く学ぶ喜びを知り、自分の可能性に挑戦する日々について、お話を伺いました。
学ぶほどにのめり込み、研究の楽しさを知った学生時代
―― 大学で機械工学を専攻したのはなぜですか?
小さい頃から、機械が好きでした。父が電子工学系だった影響でしょうか、洗濯機や車、掃除機などのしくみに興味を持ったり、解体して怒られたりもしましたね(笑)。自然と理系に進む道を選ぶことになりました。学部2年生の時に機械工学科を選択しましたが、女子が1割程度。この学科がJABEE認定プログラムであることは、学科選択後の詳細説明会で知りました。
―― JABEE認定プログラムを履修している学生時代は、どんな日々でしたか?
必修科目が多くて大変でした。さらに、試験などでの達成基準が高くてクリアするのが難しいため、そこまで自分を引き上げなければならなくて。みんなで目の下にクマをつくりながら頑張っていました(笑)。
ただ、興味がどんどん引き出されていくようなカリキュラム設計で、学ぶのが楽しかったですね。たとえば、力学は「材料力学」「機械力学」「流体力学」「熱力学」の4つに大別されているのですが、それらをシステマティックに学んでいくと次第に世界が立体的に捉えられるようになったり、分かったつもりになっていたことがよりクリアに理解できるようになるのです。
加えて、学年ごとに独創的な授業も印象的でした。2年では「創造演習」があり、自分で決めたテーマを半年間研究して、ポスターをつくり発表しました。3年の「プロダクションエンジニアリング」では、チームを組んで車椅子のデザインをし、CADで描いた図面を用いてプレゼンしました。こうした創造的な授業は魅力的で、他の学科から「機械学科は羨ましい」と言われていましたね。JABEEでは、デザイン能力、コミュニケーション能力、チームワーク力を身につけるプログラムであることを認定基準としているということも、学んだ後に知り、納得した次第です。
生産現場に身を置き、ものづくりを手がける技術士になりたい
――「JABEE認定プログラムはたいへん」という声が聞こえますが、どんなところが大変なのでしょうか。また、それを乗り越えるために、どのような努力をしましたか?
わたしの場合、理論を学ぶのは何とかなるのですが、ひらめきを必要とする機械力学が苦手でした。たとえば「歯車のメカニズムを発想する」といった課題が出された時などは、思いつかずに悶々としました。ただそんな時は、学科内の同期とディスカッションを重ねます。自分だけで考えていても立ち行かないことでも、何人かで取り組めば進められることもあるんですね。
その後、修士課程では企業や他大学、他分野とのコラボレーションなどもあり、複数のミッションを同時にこなしていく日々でした。企業の方からはマーケットのアイディアを研究材料にした。社会でプロとして仕事をする方から「こういう処理をした方がいい」などアドバイスをいただくのは勉強になりました。
―― それから大学院に進まれたのですね。修士課程ではどのような研究をしていましたか?
使い終わったら分解する「生分解性プラスチック」の分解速度の制御について研究していました。思うがままに分解するプラスチック素材をつくるための表面処理を考えたり、力学物性の変化なども見ていきます。また、国内外の学会で発表したり、査読付きの国際誌論文が無事通ったりと、結果を残せたのはよかったです。
博士課程にも行ってみたいな、と思ったこともありました。そんな頃、大学を通じてJABEE認定プログラム履修生と慶應出身の企業エンジニアとの対話会がありました。さまざまなジャンルで活躍するエンジニアの先輩の話を実際に聞く中で、大学でひとつの研究に打ち込むだけではない、と知ることに。技術士として最先端の情報に触れながら背筋を正して働いている先輩の姿はかっこよくて、わたしも生産現場で働いてみたい、そしていずれ技術士資格をとりたいと考えるようになりました。
また、就職活動時に機械工学科の先生方が「自分の学生は自信をもって推薦してやる」と言っていらしたのが印象的でした。JABEE認定プログラムでの指導は、先生方にとってもとても大変なことだと聞きますが、履修生には胸を張って社会に送り出せる教育をして下さったということなのですね。
勉強にまっすぐ向き合うことで、主体性のある生き方ができるようになる
―― 社会人3年目の現在、どんな仕事をしていますか?
1つ前の職場は出身地の企業。新卒で就職し、車の部品をつくるアルミ鋳造の仕事をしていました。アルミを高温で溶かし、型に流し込み、冷え固まりながら圧力をかけていく、という工程には力学の4要素が全部入っていて、とても面白いです。完成車メーカーからいろいろな部品を発注され、それをチームで手がけます。自分の仕事が品質に反映され、課題を解決することがボーナスに反映されますから、「もっといいものを開発しなきゃ」とやる気がわいてきます。
この会社では、わたしが技術者として女性初登用でした。いろいろなことをやらせてもらったので感謝しています。ただ、会社も戸惑うことが多かったのではないでしょうか。少し前に退職することになりましたが、それは女性が働く環境が整ったところに行きたいと思ったから。女性の働く場所をつくるために頑張るというより、純粋にエンジニアとしてがんばりたいなと思ったからです。
油まみれで鋳造機の前にいる前職は、ものづくりの実感があって楽しかったです。現在は、新しい職場で品質保証、品質管理側の仕事に就いています。
―― 社会人として働く立場から、JABEE認定プログラムのある大学に進学を考える高校生や、履修中の学生に伝えたいことがあれば教えてください。
「勉強を侮らないでほしい」ということです。というのも、社会に出ると、自分で勉強するというのはとても大変で、適切に組まれたプログラムを学べるのはありがたいことだと気付くからです。
大学に入って個人の自由度が高くなる時、その自由さを「楽に単位をとるには?」という方向に使うのはもったいない。ある価値基準に基づいてつくられたプログラムに則って学んでみることには、大きな意味があります。それは、敷かれたレールに乗るという意味ではなく、自分で考え、自分で選択し、人生を拓いていくために必要な工程だと思えるのです。そうして学んでいくうちに、いつの間にか仕事に夢が持てる自分になっていて、振り返ればJABEE認定プログラムがあった、というかんじです。
―― 最後に、水野さんの夢を教えてください。
今はチームの一員として仕事に取り組んでいますが、10年後、20年後には、チームを引っ張っていけるエンジニアになりたいと思っています。働く場所は国内外を問わず、なんなら地球じゃなくてもいい(笑)。ノウハウのないものをつくり出していく現場で、自分を試し続けていきたいと思います。
―― 水野さん、ありがとうございました。
(2017年12月)
水野 佐和子さん プロフィール
慶應義塾大学理工学部 機械工学科修了。さらに慶應義塾大学大学院 理工学研究科(開放環境科学専攻)卒業ののち、地元企業にてアルミダイカストエンジニアとして活躍。2018年より本田技研工業株式会社に勤務。アルミ鋳造エンジニアとして、生産技術競争力や品質体質の改善に取り組み、現在に至る。(写真隣は恩師である慶應大学 小川邦康教授)