
2004年4月より、JABEEが認定したプログラムの修了生は、文部科学大臣の指定を受けて技術士の第一次試験が免除されることになりました。また、2022年4月より、海外のワシントン協定加盟団体が認定したプログラムの修了者に対してもJABEEへの申請により技術士第一次試験が免除される制度が始まりました。この仕組みは、世界各国の技術者教育認定団体が加盟する「ワシントン協定」の趣旨に基づくもので、日本の技術士資格においてもグローバルに通用する技術者資格への道が大きく開かれたことを意味します。
今回、その第一号申請者として第一次試験が免除されたのが、パキスタン出身で現在は愛知県豊橋市の「栄土地測量設計」に勤務するモアザムさんです。
その軌跡と想いを伺いました。
日本の技術に憧れて来日、夢を実現するための挑戦
日本の技術に魅せられて
モアザムさんが日本を目指したのは、幼いころから日本の高度な技術に強い関心を抱いていたからだと語ります。特に道路や橋梁といったインフラ技術に魅力を感じ、当初は英語圏での留学も検討しましたが、JICAの奨学金制度を知り、豊橋技術科学大学大学院にパキスタン人として初めて留学することになりました。
「来日当初は、ハラール対応や外国人としての住居探しにも苦労しましたが、大学院の授業は英語で行われ、学業に集中できました。ただ、日本で働き生活していくには日本語の習得が必要だと痛感し、2年間独学で勉強しました。」
地元企業との縁、そして挑戦
大学院修了後、研究生として日本に残り、就職先を探す中で、豊橋で長く暮らしたことへの親しみから、地域に根差した企業で働く道を選択。現在勤務する栄土地測量設計では、入社して3年目を迎えています。
「最初は東京の大手企業も考えましたが、豊橋を第2の故郷のように感じるようになり、自分の力を活かせる場所をこの地域で探しました。」
採用した青山社長は、「縁を感じたと言う言葉に尽きると思います。モアザムさんの人柄や真面目さに惹かれました。社内にも良い刺激を与えてくれており、若手にも良い影響を与えています。一緒に仕事をしてみて、国籍の違いを感じることはほとんどありません」と語ります。
技術士資格を目指して
モアザムさんがJABEEに連絡を取ったのは、「技術士」資格の取得を視野に入れ、先ず技術士補の登録を目指そうと考えたことがきっかけでした。社内にはまだ生え抜きの技術士有資格者がいないこともあり、資格取得は本人にとっても、会社にとっても大きな意味があります。
「高度専門職ビザの更新にも有利で、会社でも資格手当がつきます。ただ、日本語での試験や情報の取得が難しく、どうすればいいのか悩んでいました。JABEEの英語ホームページで新しい制度の存在を知ったことが突破口となり、今回の申請につながりました。」
Washington Accord
今後の期待と課題
モアザムさんは、パキスタンで受けた教育課程がワシントン協定で同等とみなされる認定プログラムであることを、入学当時は知らなかったと言います。国内での認知度はまだ十分とは言えず、国際的同等性を活用したキャリア形成は、今後の課題でもあります。
また、同じように来日している外国人に対しては「高度な日本語力が必要なので、誰にでも勧められるわけではありません」と慎重な姿勢を見せつつ、「日本語での試験は理解できても、英語での回答も認めてもらえるように制度が改善されれば、さらに多くの人が挑戦できる」と、日本技術士会への要望も語ってくれました。また「JICA(国際協力機構)が提供する、日本の大学院への留学を支援する制度のもとでの初めての留学生で、豊橋技術科学大学大学院においても初めてのパキスタン留学生となりました。さらに、JABEEの支援により、海外認定プログラム修了者に対する技術士第一次試験免除適用の第一号となった事に日本との深い縁を感じます」と仰っていたことが印象的でした。
青山社長も、「こうした制度の情報は企業側にも届いていない。今回の件を通じて、JABEEや技術士会との連携が企業にとっても重要だと認識しました」と話します。
最後に
国を越え、言語や文化の壁を乗り越えて、日本で専門職として活躍するモアザムさんの姿は、多様性と専門性の融合がもたらす可能性を強く感じさせてくれます。JABEEでは今後も、国際的な技術者教育と資格認定への支援を通じて、こうした人材の活躍を後押ししていきます。
(2025年7月)

(左から青山社長、モアザムさん、三田専務理事)
Irshad Moazam (イルシャド モアザム)さん プロフィール
パキスタン出身。国際的同等性に基づく海外認定プログラム修了者への技術士第一次試驗免除第一号認定者。豊橋技術科学大学大学院修了後、栄士地測量設計株式会社 技術部 設計課に勤務し、日本での技術者資格取得を目指して挑戦を続けている。