長浜バイオ大学
蔡 晃植
【教員】
2019-09-20
豊橋技術科学大学
寺嶋 一彦
【教員】
2018-10-17

(株)オリエンタルコンサルタンツグローバル
久米田 稔・宮下 充
【企業人】

「国際認定された教育を受けた技術者がいなければ、業務実行は認められません」。モザンビークですでに火力発電所の工事監理業務にあたっていたエンジニア3名は、認定教育を受けていませんでした。オリエンタルコンサルタンツグローバルの久米田さんは祈るような気持で2018年3月、現地からJABEEに連絡を入れたそうです。その経緯から、学ぶこととは。オリエンタルコンサルタンツグローバル上下水・エネルギー開発部の久米田氏、宮下氏にお話を伺いました。(2019年5月30日発行の日刊工業新聞でも掲載されています。)

モザンビークでの発電所建設を支える日本人がライセンスを持ち得なかった理由
―― モザンビークでのお仕事は、どんな内容だったのでしょうか。

2012年から、弊社は首都のマプト市にある本天然ガス焚き複合火力発電所の建設プロジェクトに携わってきました。本事業は政府開発援助(ODA)の重要な一部を占める円借款事業で、弊社はモザンビークの電力公社を技術面でサポートするコンサルタントチームのメンバーとして雇用されました。

実はモザンビークは、石炭や天然ガスなどの天然資源が豊富です。これまでは、自国内にあるカオラバッサ水力発電所(南部アフリカ一の高さ、171mを誇るダム式水力発電所)で起こした電力の大半を、専用の直流送電線で隣国の南アフリカに一旦輸出し、自国で必要な分を逆輸入していました。もともと自国で産出したエネルギーを隣国から高いお金を出して購入していたわけです。また、南部で産出する天然ガスは、これまで全長865kmのパイプラインで隣国の南アフリカにほぼ全量輸出されていましたが、首都マプトを含む南部地域の電力需要が高まってきたので、自国で産出する天然ガスを有効活用するために本火力発電所が形成されました。ちなみにタンザニアとの国境に近い北部でも液化天然ガス(LNG)開発事業が進行中で産出される天然ガスの一部は日本で消費される予定と聞いています。

―― 事業を進めるにあたり、どんな問題が生じたのでしょうか?

当時、すでに弊社は3名の日本人のベテランエンジニアを配置し、業務にあたらせていましたが、工事半ばにしてモザンビークの公共事業省から「業務管理を実行するためには、モザンビークで建設コンサルタント業務に従事するためのライセンスを取得しなければならない」と勧告を受けました。ODAの一環である円借款事業ということもあり、これまでの経験から経歴書で事足りるだろうと思っていましたので、これは想定外でした。現地の法律事務所を雇って漏れのないように書類を整える努力をしていたつもりでしたが、前例がない上に手続きが複雑なため、半年以上スタックしている状態が続きました。これは実に頭の痛い問題でしたね。

そのライセンス要件には、「登録エンジニアが5名必要で、チーフクラスの1名は現地の技術者協会へ10年登録していなければならず(つまり10年以上住んでいなければならず)、公共事業省には5年登録していなければならない」といった内容がありました。当然にして、我々のスタッフにはその要件を満たす者は1人もいない状況でした。

JABEEのサポ―ティングレターはライセンス取得への扉を開いた
―― その後、事態はどのように展開したのでしょうか?

要件を満たすローカルの技術者を5人雇うのはどうか、という話になりましたが、何とか現地雇用できたのは2名のみでした。

そんなある日、我々のもとに公共事業省からWarning Letterが届いたのです。そこには「書面にある期日までに要件が満たされない場合は、罰金を課す、罰金を払わないのであれば即時に工事をストップする」といった内容が書かれていました。もしこの事態を乗り切れず、工事監理業務が遂行できないような事態になったらと思うと、生きた心地がしませんでしたね。

そうして困り果てていた時、電力公社の発電部の部長から助言をもらいました。「ワシントン協定の加盟団体の認定プログラムを修了している技術者なら、要件を満たすことになる」とのこと。さっそくワシントン協定のホームページを確認したところ、日本にはJABEEという認定機構があり、JABEEの認定プログラムはワシントン協定の加盟団体の認定プログラムと同等であると謳われていたのです。わたしが初めて、JABEEを知った瞬間でもありました。

日本人エンジニア3名の出身大学を調べたところ、鹿児島大学、宮崎大学、立命館大学だと分かりました。幸いどの大学も土木工学科がJABEEの認定を受けていましたが、3人ともJABEEが設立されるより以前に卒業しています。

―― それでは、JABEE修了生になりようがありませんね。

そうなのです。ただ、我々にとってこの情報は一筋の光に見えました。むしろ、それしか頼れるものがなかった。すぐにJABEEを訪問し、「モザンビークの公共事業省宛に、サポ―ティングレターを出してもらうことはできませんか」というお願いをしました。

突然で無謀なお願いだったにも関わらず、JABEEはひと呼吸も置かずに快諾してくださいました。そして、「彼ら3名が卒業した学科は、JABEE認定を現在も継続して受けており、彼らはそれと同等の教育を受けています。もちろん、ワシントン協定下で同等の教育です。彼らの出身大学の学科はJABEEが設立された早い段階からJABEE認定を受けている、先見性のある教育機関です。先生方はいずれも質の高い教育をしています」といった、とても前向きなサポ―ティングレターを作成してくださいました。これをモザンビークの公用語であるポルトガル語に翻訳し、公証役場にて証明を受けて卒業証明書に添付し、現地に入って決死の覚悟で交渉をしたところ、なんと一発で許可されることに。2週間後にはライセンスを取得することができました。JABEEの支援がなかったら、こんなにもスムーズに運ばなかったはずです。

世界で仕事ができる技術士を輩出すべく企業とJABEEが連携を深める
―― モザンビークが海外の技術士を導入した主な理由は何でしょうか?
モザンビークはワシントン協定に加盟しておらず、エンジニアに乏しい状態なのだと言えます。隣国の南アフリカはワシントン協定に加盟しているため、多くのエンジニアの援軍がモザンビークに送りこまれていますね。アフリカ大陸では、ナイジェリアがワシントン協定暫定加盟を準備しているだけという状況です。 さまざまな国のエンジニアが事業にあたる際、技術の質にばらつきがあると現場が困ってしまう。だからこそワシントン協定やJABEEがあり、質を保証する必要があるのでしょうね。 ――世界で活躍する技術士にとって、JABEEの認定プログラムが必要となる局面でしたね。

認定プログラムを修了しているとみなされなければ世界で仕事ができない、ということを、身を持って知る機会となりました。特に、公共事業に関わる土木ジャンルは、工場の中で完結してしまうような仕事ではなく、人間が出向いていかねばならない仕事だからこそ、資格が必要なのですよね。

また、現場が本当に必要としている日本のベテラン技術士の方々が認定プログラムを修了できていない、という現実も目の当たりにしました。JABEEは1999年に設立され、2001年から認定事業を開始していますから、40代以上の方は認定プログラムの修了生にならない。そうした壁に当たった時、JABEEが全面的にサポートしてくださるというのは本当に心強いです。今後はもちろん、人材を確保するにあたってはJABEEプログラム修了生を優先的に採用することを考えています。

これを機に、オリエンタルコンサルタンツグローバルはJABEEの賛助会員となりました。JABEEの存在意義を深く理解した上でのことです。JABEEが企業を支え、企業がJABEEを支えるという動きをつくることで、国際的に活躍できる技術士がさらに増えていくことを望んでいます。

―― 久米田さん、宮下さん、ありがとうございました。

(2019年6月)

久米田 稔さん プロフィール

総合開発事業部上下水・エネルギー開発部プロジェクト部長


宮下 充さん プロフィール

長野県生まれ。1988年長野高専卒業、1992年宮崎大学工学部卒業、1994年同大学大学院修了。同大学院終了後、建設コンサルタントに入社 し現在に至る。